昭和の匂いがする②
僕は女の子のように泣いた。御用聞きの三河屋の源さんの後ろ姿が涙で霞んだ。僕の家の軒下で生まれた仔猫が捨てられに行く。「男の子がそんなことで泣いちゃいけないぜ。たかが野良猫じゃねえか。」事情を知った源さんが捨て猫を引き受けてくれたのだ。何度も母に飼ってくれるよう頼んだけれど、あの頃の生活はたかが猫でも飼えるような余裕など無かった。未だ名も無いブチが名残り惜しそうに、荷台の箱から僕に向かって鳴き続けていた。あの日の心の傷みは、大人になった今でも消える事がない。軽やかな4スト・エンジンの音と僅かなオイルの匂いと共に。その昔、借家住まいだった僕の家に出入りしていた酒屋の源さんも、もうきっとお爺さんだろう。源さんは今でもカブに乗っているだろうか。カブと仔猫は僕が少年時代を懐かしく思い出す時、いつも哀しく切ない記憶を運んで来る。
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